遠軽駐屯地誘致秘話


年代:昭和26年3月
カテゴリー: 産業 

陸上自衛隊第25普通科連隊が駐屯する自衛隊遠軽駐屯地。隊員とその家族も含めると、人口の1割ほどを占めるといわれ、遠軽町に欠かせない存在となっています。

この遠軽駐屯地は、自衛隊の前身である警察予備隊を地域住民の運動により誘致し、昭和26年3月に約1,200名の隊員が移駐してきたことに始まります。この誘致活動の様子は、平成25年12月に発行された遠軽駐屯地広報誌『キャンプ遠軽』の創刊第100号で次のように伝えられています。


警察予備隊誘致当初の営門

警察予備隊誘致当初の営門

昭和20年に終戦を迎え、その5年後の昭和25年6月、朝鮮戦争が勃発、日本に駐留していた米軍の朝鮮半島転用が決まりました。米極東軍総司令官 マッカーサーは、陸軍が解体され、手薄となった日本の警備を懸念し、約7万5千人からなる警察予備隊の創設を吉田茂首相に指令、警察予備隊が創設されることとなりました。
遠軽町では、警察予備隊発足後ただちに誘致運動を開始し、遠軽町商業協同組合が中心となって誘致に関する町民大会を開催するなど、熱心な協議の結果、満場一致で超党派の賛成を得ました。

そして、同年11月、町議会議長の上原哲平、商工会議所会頭の大沢重太郎、同副会頭の太田勝信が上京し誘致の陳情を行うこととなりました。

東京で合流することになっていた大沢を除く2人を乗せた列車の車中、丸瀬布付近で上原がようやく口を開きました。
「いや困ったことになった。こんなこと引き受けてきたが、私にはまったく成功の目算がない。太田さん、あなたはありますか?」
「いや、私も別に…。ただ真情を吐露し、熱意をもって相手を動かすのみ。当たって砕けるまでさ。」
「運動の順序としては、まず(農業)試験場開放を第一とし、次いで警察予備隊の駐屯要請として重点を指向しよう。」
といった運動方針を話しながらも、2人を乗せた夜行列車は着々と東京に近づいていきました。

東京・上野に到着した2人は、大沢と合流すると、紋別市出身の松田鉄蔵代議士を訪ね助力を申し出ました。物わかりの良い松田は「話はわかった。明朝5時に食事をしないで家に来てくれ。」

翌朝、松田邸に到着後、すぐに車を乗り換え、農林大臣 広川弘禅の私邸へ。そこでは報告、打ち合わせ等の長蛇の列が並んでいました。それを見た松田は「はいっ御免よ!はいっ御免よ!」と、列の者には目もくれず、離れの奥の一室に一行を案内しました。
炉を切った閑静な和室に鳥の見回りを終えた広川大臣が入室すると
「用件は遠軽の試験場の開放とGHQへの紹介ということか?」
「そのとおりです。」
「よし、それでは昼食を議員食堂でするように準備してくれ。」
さも言いたいことがわかるかのように簡単に会見は終わり、一行は松田邸へ引き上げました。

昼食には、法務大臣 大橋武夫、初代長官 増原恵吉、農林大臣 広川弘禅などをはじめとするそうそうたる顔ぶれが集まっており、その中で上原、大沢、太田の3人は遠軽への警察予備隊の誘致について、その重要性を訴えました。すると、話はトントン拍子に進み、元北海道副知事で、元遠軽町長でもあった福田藤楠を通訳係としてGHQに直接陳情を行うことになりました。

一行は、GHQ代表 スワロフスキー大佐をはじめ、関係係官と会見し、防衛・警備上からみた遠軽の地理的重要性を訴えるとともに、「承諾を得るまでは帰らない。」と、町民の熱い思いを背負っていることを伝えました。大佐はその熱意に共感し、すぐに在札幌司令官 ドリンカード大佐に電話連絡、遠軽町の現地調査を命じたほか、誘致に伴う態勢の変更などを指示しました。
この時点で陳情の成功と誘致の決定を確信した一行は、何の算段もなく上京し、トントン拍子に物事が成功する様を思い返し、「背筋にゾッと冷たいものを感じた」と、のちに語ったといいます。

引き続き札幌に向かった一行は、そこで町議会議員たちと合流し、誘致の成功を抱き合って喜び合いました。札幌でのドリンカード大佐への陳情においても「その件はGHQより指示があり了承しています。」と快い扱いを受け、スミス中佐を同行して遠軽町の現地調査に至ることとなりました。

かくして、昭和26年3月、遠軽町の農業試験場跡地に警察予備隊が札幌や函館から移駐することとなりました。上原らによる陳情からわずか4か月後の出来事でした。


冒頭に書いたとおり、遠軽駐屯地は地域経済だけでなく、文化やスポーツ振興、イベントなど、まちづくりにおいて遠軽町にとって重要な存在となっています。
町は「日本一の駐屯地」として、自衛隊とともに発展する町を目指していますが、そのためにも、上原、大沢、太田の陳情団をはじめとする先人たちの努力と熱意があったことを忘れてはなりません。

引用文献

遠軽駐屯地広報誌『キャンプ遠軽』の創刊第100号


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