秋葉實~郷土の歴史を守り、文化を伝えていくことにかけた生涯
秋葉實は、大正15年(1926)6月29日、北見国遠軽村字ムリイ(現・遠軽町丸瀬布武利)の秋葉家の三男として生まれました。小学1年生のある猛吹雪の夜、遭難しかけていたアイヌの夫婦を両親が自宅に招き入れ、助けたことがあったといいます。この時の出会いが、郷土史の保全と文化の継承に生涯を捧げるきかっけとなりました。15才の頃には、東京の材木店の養子へ。陸軍少年通信兵学校を修了後、そのまま太平洋戦争に従軍。終戦後は、故郷の丸瀬布へと戻りました。
昭和22年(1947)に、丸瀬布地域の郷土を記した機関紙『月刊山脈』を刊行。この後、郷土資料の散逸を防ぐため資料収集を始めます。森林鉄道蒸気機関車雨宮19号(その後に21号となる)車両の保存運動や、開拓古老座談会の実施、丸瀬布郷土史研究会発足など、時には私財も投じて郷土史の保存に奔走しました。また、この時の座談会をきっかけに、かつて丸瀬布に住んでいたアイヌの人たちを旭川まで訪ねたことで、ムリイを故地(ふるさと)とするアイヌの人たちとの長い交流が始まりました。
また、郷土史を追及していく中で、北海道大学の高倉新一郎が主催する古文書解読講座に参加。自身でも松浦武四郎をはじめとする明治前後の北海道を記述した古文書の解読を進めていきます。このような経験を経て、編さん作業を行っていた『丸瀬布町史』を昭和49年(1974)に刊行しました。
昭和51年(1976)年には、江戸時代後期に幕府から出版差し止めを受け、松浦家の私蔵文書となっていた国立史料館収蔵の松浦武四郎著の『戊午日誌』や『手控』を閲覧する機会を得ます。その後、松浦家からの信頼を得て、昭和57(1982)年に『丁已東西蝦夷山川地理取調日誌』を皮切りに武四郎の解読本を出版しました。その後も手控や書簡の解読を続け、武四郎研究の第一人者として知られていくようになります。
その功績が認められ、昭和63年(1988)には「北海道文化賞」を受賞。その後も「文部大臣地域文化功労表彰」、「北海道新聞文化賞」などを受賞しました。
晩年は病を患いながらも、武四郎の古文書と膨大な数の関連史料を読み解き続ける日々を過ごし、平成27年(2015)4月11日、この世を去りました。
【参考文献】
秋葉實1992『百年記念碑建設誌』野上駅逓百年記念碑建設期成会
秋葉實2003『上川紀行』旭川叢書第28巻,旭川市中央図書館
舘浦海豹2009「地方史研究家秋葉實 アイノを語る」『北海道いい旅研究室』第11号,p96~104
舘浦海豹2010「地方史研究家秋葉實 アイノを語る2」『北海道いい旅研究室』第12号,p148~156
舘浦海豹2011「地方史研究家秋葉實 アイノを語る3」『北海道いい旅研究室』第13号,p88~96
舘浦海豹2013「地方史研究家秋葉實 アイノを語る4」『北海道いい旅研究室』第14号,p81~91
松浦武四郎研究会編2016『松浦武四郎研究会会誌第72号 秋葉實氏追悼号』松浦武四郎研究会
丸瀬布町1974『丸瀬布町史』丸瀬布町
丸瀬布町1994『新丸瀬布町史』丸瀬布町
【協力】
丸瀬布郷土史研究会
秋葉一実